濃厚なインプラント 東京
1つには、他に治療法がないからです。
進行したがんは切除できないうえに放射線もかけられない。
乳がんや前立腺がんのようにホルモン療法もできないとなると、あとは抗がん剤に頼るしかありません。
患者さんもじっと死を待つのは精神的に苦痛ですから、突きつけられる試練があまりにも悲惨であるとわかっていても、医師のすすめに従わざるをえないのです。
データ上は3割に効くという抗がん剤ですが、その3割に自分が入れるかどうかはだれにもわかりません。
3割に入れたとしても、天寿をまっとうできるかどうかの保証はなにもないのです。
抗がん剤に関して私がもっとも強調したいのは、有効として示された数字と臨床現場の実態があまりにもかけ離れている点です。
抗がん剤の臨床試験が終わると、その結果は最終的にリポートにまとめられ、正式文書として厚生労働省に提出されます。
その前に治験終了の会議があって、表やグラフにしたデータや画像診断結果をスライドで見せながら発表します。
たとえば、その中で3〜4割の患者さんにがんの縮小が見られた場合、その抗がん剤はものすごく有効だったように見えます。
ところが、実際に患者さんをベッドサイドで観察した私たち治験担当医たちの頭の中には、とてもその抗がん剤が有効だったというイメージがないのです。
たしかにレントゲンではがんが小さくなっていますが、患者さんはただ苦しみ、どんどん体を衰弱させて、なかには治療が終わってから3か月以内に亡くなった方もいます。
患者さんの多くは、自分だけは例外で助かると思って治療に賭けるのですが、場合によってはもたらされるのは不利益ばかりで、がんと闘うどころか、耐えるのがやっとという生活を余儀なくされることもあるのです。
臨床現場の実態と禿離したデータは、やがて厚生労働省の薬事審議会にまわされ、がんの治療薬として認められていくことになります。
奏効率などの数字だけを見ても判断できない部分があるのです。
抗がん剤の効果の実態や不利益について書いてきました。
私自身、抗がん剤の副作用に無頓着であった経験を告白しましたが、医師は教えられたこと、標準治療とされていることには多くの場合、あまり疑問を抱くことはないものです。
私が抗がん剤についてのさまざまな疑問をもつにいたった理由の1つは、やはり新規抗がん剤の治験に参加したことで先に述べたような経験ができたことです。
私が医学部を卒業して以来、ずっとお世話になった恩師にT先生がいらっしゃいます。
T先生は日本癌治療学会の会長を務められ、塩酸イリノテカンをはじめとした数々の新規抗がん剤の治験総括医師に就かれた方です。
直弟子であった私は治験の実質的な業務も引き受けることになりました。
臨床現場の実態と禿離したデータが独り歩きしていく原因の1つは、治験の中枢にいらっしゃったがん治療の重鎮の方々に実情が十分に伝わらなかったためですが、それはわれわれ治験そのような方でも、大学で多くの治験をかかえ、学会活動に忙しくしていたころは、さすがに教授室にこもることが多くなって、病棟からは足が遠のいてしまいます。
私が治験をおこなっている患者さんのレントゲンやデータをもって頻繁に報告することになりますが、実情を正確にはお伝えすることができていなかったかもしれません。
抗がん剤に疑問を抱いたもう1つの大きな理由は、免疫療法の研究と実践をする機会があったからだと思っています。
それがなければ、「がんは治せない病気であり、他に有効な治療法がない以上はつらい治療もやむなし」といった考えは、やはりまだ捨てきれずにいたかもしれません。
T先生は研究者というだけでなく、医者としての技量も秀でており、大学を退官された後も2001年にお亡くなりになるまでずっと医者の仕事を続け、医療に生涯を捧げた大学病院で化学療法に精力的にとりくんでいたときにも、一方で研究的な目的が中心ですが、がんの免疫療法科というものを開いておりました。
じつは恩師のT先生が、将来のがん治療は免疫療法だという夢を抱いていたお1人だったのが幸いしました。
がんの患者さんは、がんが病因で亡くなると思われがちですが、合併症や副作用で亡くなる方も皆無ではありません。
いわゆる〃副作用死″は、がんによる死亡者全体の5%近くを占め得られないまま、大学病院の片隅の部屋を借りてスタッフの手助けも十分に得られない状況で細々とおこなっていました。
当時おこなっていた免疫療法としては、さまざまな免疫賦活剤を注射したり、すでに免疫細胞療法もおこなっていました。
私が自分でリンパ球を培養して、はじめて患者さんの治療に使用したのは1991年のことですが、そのころの方法は現在の治療法の原型をなすものです。
免疫療法科で治療を受けていた患者さんがどんどん治っていった、ということはありませんでしたが、ただ一方で、副作用の強い抗がん剤治療を受けていらっしゃった患者さんとは、たいへん大きな違いがありました。
それは、免疫療法科の患者さんはみんな生き生きとしており、治らないまでも病気の進行がなく、長生きされている方が少なくなかったということです。
余命の計算などは、まったくあてにならなくなってしまいました。
いまでもそのころから治療を受けていらっしゃった患者さん方に、ときどきお会いすることができます。
新薬の開発が盛んで審査期間も短いアメリカでは、最近になってやや情勢が変わり、単に縮小効果をねらった副作用の強い抗がん剤が敬遠されつつあります。
同じことは日本にもいえて、肺がんの治療に使われている酒石酸ビノレルビンや胃がんに対するTS‐1をはじめ、効き目も副作用もマイルドな抗がん剤が認可されるように変わってきています。
このような変化の背景には、QOL(生活の質)を重視したり、ドーマンシー・テラピーに象徴されるような、がんとの共存共生を受け入れる考え方がひろまってきていることがあるといわれています。
4世紀に入って、分子標的薬とよばれる薬があいついで出現してきました。
2001年にはハーセプチン、リッキサンなどの抗体医薬が認可されました。
これらの薬は抗がん剤というよりは免疫療法の医薬ということができます。
また、2002年にはイレッサが認可されました。
これらの分子標的薬は腫傷の縮小をねらったものでなく、進行を抑制する薬剤として理解されており、がんとの共存共生に通じる治療と考えられます。
そのような世の中の常識ではまずありえない、あってはならないことが抗がん剤には許されてきた経緯があります。
くつの言い方をすれば、過去においては、命にかかわるような、ひじように強い副作用をもたらす抗がん剤が、むやみに使われてきたということです。
「抗がん剤」でがんと私がいまのクリニックの院長を務めてから、かれこれ3年以上になりますが、この間にがんとの共存共生を受け入れる姿勢は、がんの縮小・消滅を希望する考えの対極に位置するものです。
それはそのまま、従来の医療に対する問いかけであるといってもよいでしょう。
たしかに、がんを体内に宿していることはあまり気持ちのよいものではありません。
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